1567.学而篇の子貢2句

1567.学而篇の子貢2句 :2011/6/13(月) 午後 1:47作成分再掲。

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 学而篇中の

子貢関連2句です。有子・曾子とは違って、変な自説を披露するのではなく孔子の個性を補足説明するだけ
です。いかにも如才なく孔子を尊敬することひとかたならぬ子貢らしい、印象です。

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子禽問於子貢曰、夫子至於是邦也、必聞其政。求之與、抑與之與。子貢曰、夫子温良恭儉譲以得之。夫子之求之也。其諸異乎人之求之與。 (学而1の10)

(読み下し)

子禽(しきん)子貢に問いて曰く「夫子(ふうし)のこの邦(くに)に至るや、必ずその政(まつりごと)を聞く。これを求めたるか、抑(それと)もこれを与えたるか。」

子貢曰く「夫子は温・良・恭・倹・譲を以てこれを得たり。夫子のこれを求むるや、その諸(もろもろ)人のこれを求むると異なるか。」

(通説)

子禽が子貢に聞いた「孔子先生は各国にいかれたが、必ず各国で政治に与った。自分からそうされたのでしょうか?」

子貢が答えた「先生は温・良・恭・倹・譲な方だった。だから自ずと政治にかかわることになった。先生の政治参画の場合は、他の人が自分から求めてそうするというのとは諸々違っていた。」
⇒自明でしょう。通説読みが妥当かどうか?そして論語冒頭のこの子貢の証言を無視して、孔子は14年の周遊諸国では政治に容れられることなく浪浪の旅をした、というのが、これまでの儒教の常識、のようです。

論語論語といいながら、見たいものしか見ず、読みたいようにしか読んできていない、典型と思います。よく知りませんが、おそらく子貢のこの言葉は嘘のでっち上げ、というのが多くの史家や儒家のお立場なのでしょう。

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子貢曰、貧而無諂、富而無驕。何如。子曰、可也。未若貧而樂富而好禮者也。子貢曰、詩云。如切如磋如琢如磨。其斯之謂與。子曰、賜也。始可與言詩已矣。告諸往而知來者也。(学而1の15、#15)

(読み下し)

子貢曰く「貧しくして諂(へつら)うこと無く、富みて驕(おご)ること無きは、何如(いかん)」。

子曰く「可(か)なり。未だ貧しくして楽しみ、富みて礼を好む者に若(し)かざるなり。」

子貢曰く「詩にいう「切するが如く磋するが如く琢するが如く磨するが如し」と。それこれはこの謂いか。」

子曰く「賜や、始めて与(とも)に詩を言う可きのみ。諸(これ)に往を告げて来を知る者なり」

(通説)

子貢「貧しいけどへつらうことなく、富んでもおごることがない、どうでしょう?」

孔子「それはそれでよい。だが、貧しいけどなお楽しみ、富んでなお礼儀正しい、こっちが上だな。」

子貢「詩経に切磋琢磨というのはこのことですか?」

孔子「子貢や、ようやくともに詩経を語れるな。撃てば響くだな。」
⇒ここには朱子が言うように子貢の自慢話の面もあります。また、切磋琢磨ってそういう意味か、ちと外れているだろう、とも思いますが。

⇒しかし言いたいのは前段です。「理想に燃えて政治志士活動などをやっていると、まずはお金と縁がなく、貧乏になる。それでもいいではないか、貧しくとも楽しくてしかたない。もっとも金持ちになっておごることなくさらに礼儀を尽くすというのもいいけどな。」の気持ちでしょう。

⇒さらに、読み込めば、ここは子貢への皮肉もあります。つまり、おまえみたいに金持ちになって驕ることなく礼儀も尽くす、たいしたもんだ。だけどな、・・孔子は決して豊かではなかった・・おれはお前と違って貧しいけど楽しんでいる、楽しいのだよ、という孔子の自慢話です。子貢を面前で皮肉ってお前は本当に楽しいか、とも聞いています。

・・切磋琢磨はどうでしょう、この前段とはつながってはいなかった、別句でしょう。孔子と子貢、この二人の間が切磋琢磨=丁々発止が子貢には楽しく懐かしかった。前段の句は孔子先生に一本取られたなあ、それで切磋琢磨の句をくっつけることに違和感がなかったのでしょう。

⇒なお、吉川さん本によれば日本の多くの写本は「貧而楽道」とあると、こちらのほうが良い。

ここにも「楽」があり、しかも道を楽しむ、と。孔子には、政治思想志士運動(=一道)が楽しい、悦ばしい、好もしい。そしてそれはそのまま学・朋・人を知ることであり、これはまた楽・悦・好なのです。・・生き生きしています。もっとも大事なところです。

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⇒上記

子貢の2句は実践的で楽しげで生き生きしています。有子や曾子のそれが(それはそれでいいのですが)理屈で学窓的で楽しいかどうか分からない、のに比べて、全く違う。

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最後に、

学而篇の最後の一句、子夏の句
を見ておきましょう。
(つづく)

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