1560.論語成立過程と孔門志士派読み

1560.論語の成立過程と孔門志士派読み:2011/6/10(金) 午前 11:24作成分再掲。

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(1)津田左右吉さんはさすがで、論語孔子らの当時の活動や他の思想状況がわからない限り厳密な議論は意味がない、と強く主張しました(「論語孔子の思想」)、誠に同感です。いまだにそんな資料がないようだったので、ここまで約70回にわたり、想像も交え孔子の当時の活動を推定しました。その結果、後の儒教に近い孔門学窓派(仮称=曾子・有子・子思ら)とは「全く別の、孔門志士派」ともいうべき想像以上に活発な政治行動団体、を発掘復元するに至りました。


すなわち孔子と子貢ら孔門十哲と伝わるかれらが、特に、前492年~前468年に考え行ったことは、呉王夫差や越王勾践をめぐる中国春秋史上でも画期的な時代の陰の主役とも言うべき存在でした。・・従来ない説(と思うの)ですが、左伝国語史記など古い記録ともより矛盾なく読める内容で、この仮説が真実である確度は高いと思います。

 

(2)この仮説に従うと、論語も、多くの部分がよりすんなりと読めるようです。

そのためにもまず、現伝論語の成立経緯について結論めいたところを述べておくと(例外はいくつもありますが大概のところ)、
伊藤仁斎流の「上論10篇が孔子オリジナルで、下論10篇が後の続纂」ではなく、「上論=魯系で孔門学窓派のもの、下論=斉系で孔門志士派のもの」で、いずれもオリジナルの孔子や弟子や関係者の証言等を引いてはいる。なお、魯は孔子故地で学窓派が塾(複数)を続けた地、斉は子貢の老後の故地、です。

②成立は学窓派のものが先行、しかし、それだけではないという気持ちから、志士派の系統を引く子貢系(子張ら)が別途編集。

③魯系(本)と斉系(本)はもともとかなり違っていたが、長い戦国や秦焚書や漢初混乱時代を経て、儒家共通の立場として相乗りが進み、前漢武帝司馬遷の時代には、魯本・斉本・古論の三種になっていた。斉本は長かったというから事情説明的なものが少しはあったのでしょう・・

漢帝国儒教国教化もあり、董仲舒から鄭玄までの間に魯本をベースに三本を合冊、学窓派の強いものが「論語」として定本化された。これがその後長く、歴代中華帝国から朝鮮日本へ、そして今なお共産体制中国*においても、帝国管理維持型の論語、として生き続けている。

  *思想的に毛沢東は明確に帝国儒教を否定したが、ここ数十年中国指導部が孔子復活を言う。大帝国を維持管理するには結局のところ儒教が便利ということらしい。

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(3)さてさて。伝統儒教的学際的論語の読み方は、2200年にわたって続けられ様々にあるわけですが、今racが読んでみたいのは、孔門志士派の考え方に即して読むとどうなるか?、です。

孔子や子貢ら志士派の発言を、従来為されているように学窓派的に読み解釈することももちろん否定しません、それはそれで世界遺産です。しかし、正直それでは、生の孔子や子貢や十哲が、可哀想、とさえ思ってしまう、彼等はもっと激しくもっと苦しみもっと人間的であった。
さらに、
志士派の立場は、孔子らが生きた当時の生々しい現実感覚と理想に燃えた政治外交思想活動を伝えるものであり、現代の、当時に似たグローバル・多様・私利私欲・下克上・何でもあり社会では、かえって勉強になるところが多い。誤解を恐れずに言えば現代的、でもあるのです。・・学窓派の主張と改竄と独特の読み方の長い伝統の中で志士派の主張は大変読みにくくなってはいますが、不可能ではない。当時の孔子等の活動状況とその背景をみつつ読むことで、生の息遣いに触れることができるものも多いのです。
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(4)では現伝論語をどう読んでいくか。学而冒頭句の読みは披露しましたが、次の順序↓で論語を読んでいきます。志士派の主張を鋭角的に切り出すためです。
学而第一
郷党第十(志士派の対蹠として)
先進第十一~

そして孔子はすべて読みますが、申し訳ないけど学窓派の曾子・有子らの発言は原則飛ばします・・

なお参考書は以下

A.「四書集注(上)論語集注」朱子、明徳出版、1974年
B.「論語之研究」武内義雄さん、岩波書店、1939年
C.「論語、上、下」吉川幸次郎さん、朝日新聞、1959~65年
D.「論語」吉田賢抗さん、明治書院、1960年、
E.「論語の研究」宮崎市定さん、岩波書店、1974年、
F.「論語桑原武夫さん、筑摩書房、1982年、
G.「論語の世界」金谷治さん、NHK出版、1970年、

#句の通し番号はE宮崎さんに準拠します。
なお、いまや国会図書館デジタルネットワークや有志の議論や読みなどネットにも沢山の情報有り感謝です。

(つづく)

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