1494.「孔子世家」⑦三桓圧迫

1494.「孔子世家」⑦三桓圧迫 :2011/4/27(水) 午後 0:37作成分再掲。

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司馬遷史記の「孔子世家」から、次、(前記事②)

魯国の家老家三桓を排除すべく、季桓子と魯定公の権臣(=魯国ナンバー3)としての孔子、の活躍です。
まず「世家」の記事から。定公13年(前497年、孔子55歳)夏、孔子は魯定公に

「臣たるものは甲兵を私蔵すべきではなく、大夫の城邑は百雉(約690mとか)に達してはなりません」

(と三桓の城邑・武装の縮減を提言し、定公は賛同し・・)定公は子路を季氏の家宰にし、

まず叔孫氏?城を破壊。

季氏費城は下克上で公山不狃らが占拠していますので、ここは戦争になりますが孔子の活躍で勝利し、公山不狃らは斉に逃亡。孔子らは費城を破壊。

ですが、孟氏成城は、その城主公斂処父が孟氏を動かし、「成は斉への備え、孟氏の支え」と主張し反対、定公自ら成を囲みますが、失敗。

定公14年、孔子56歳、孔子は従来の司法大臣に宰相代行も兼務し、「喜色あり」。

門人曰く「聞く。君子、禍至りて懼れず、福至りて喜ばず、と」。孔子曰く「この言有り、「それ貴を以て人に下るを樂しむ」といわざるか」と。
ついで、『春秋左伝』をみますと1)三都を堕とす話は、定公12年(前498年、孔子54歳)のこととし、子路(仲由)が季氏の家宰相となったこと、叔孫氏?城と季氏費城の二城は孔子(仲尼)の活躍で堕とすが、孟氏成城は定公自ら囲むも堕ちないままで終わった、と世家同様の記事があります。

 

2)しかし、このあとの孔子については記載なく、定公の時代では、次は定公が亡くなったときに登場します、それだけです。・・次の哀公の時代では再度登場しますが、後のいかにも儒家らしい言動の記事ばかり、そして孔子の死、を春秋左伝は記します。
孔子(の大活躍)についての扱いが全く違うのですが・・おそらく古来業界的には大問題、孔子の大活躍は嘘という説まで出るのだろうと見ますが・・

このあたりはまさに、春秋左伝は、孔子像がある程度固まってしまった前漢末に再編集されたものと考えると納得がいきます。

それに比べると、司馬遷の世家は特別な配慮や隠し立てする必要はなにもない、その必然性もない、わけですから、むしろ、世家の情報(年号の多少の違いの問題などはともかく)が基本的には信じていいものと、読みます。
そういう意味でもなるほど観がでるのは『論語』の姿勢です。3)上記世家の引用末尾、
「門人曰く「聞く。君子、禍至りて懼れず、福至りて喜ばず」と。孔子曰く「この言有り、「それ貴を以て人に下るを樂しむ」といわざるか」と。」(世家のみ) など、このまま論語にあってもよさそうなものですが、論語からはオミットされているようです。

孔子は「得意満面であった」「高貴の身で人々にへりくだるのも楽しいものだ」といった、では、(間違っても)論語としては採用しにくい、無視したい、あるいは(時を経てその後の儒学者たちが)削除していった、弟子と孔子の問答だった、のでしょう。

他方、司馬遷(こそ)は、基本「述べて作らず」の人、と思います。司馬遷当時には孔子のこういう微笑ましい、人間的な、記録が伝わっていた、だから、司馬遷は世家に書いた・・孔子への親しみを持って書いた。
その代わり(笑い)、下克上の三桓について「最終的に」(でしょう)「論語」はこういう句を選んでいます。

孔子曰。禄之去公室、五丗矣。政逮於大夫、四丗矣。故夫三桓之子孫、微矣。」(論語季氏篇の3、#423)
(試訳=孔子が仰った。正式な禄爵の魯国公室が大権を失って5代になる(=宣公・成公・襄公・昭公・定公)。政治の大権が(下克上で)大夫(三桓、とくに季氏=文子・武子・平子・桓子)に移(逮)って4代になる。だから、三桓(季氏・孟氏・叔孫家、いずれも魯の桓公の分家だから三桓という)の子孫などは、小者だ・・)
⇒これは、孔子の言葉としても、この時期のものではありえない、でしょう。せいぜい晩年に整理しての感慨か、むしろ魯とは縁の切れた後の儒家たちが、春秋の筆法風に、魯の歴史を振り返ってのせりふでしょう。・・そして歴史の現実は儒家たちのいう、小者で衰微するだろう三桓・季氏、はますます盛ん、魯の公室の大権はついに回復されるもことなく、・・300年後にはすべて秦漢の大帝国に呑み込まれてしまいます。

⇒「論語」の季氏篇はほとんどすべて、遠まわしながら、季氏三桓家の微(小者ぶり)への非難、と読みます(後述)。・・論語の下10篇の儒家たちの付加、というのは通説ですがその通りで、この季氏篇など典型で、孔子のことばではないものも多く、後世儒家のそれらしい作文、と読みます。
要は、史記』と『春秋左伝』『論語』のちがい、・・まあ『論語』的世界の制約・限界、です。・・以上これが実情で、見誤ってはならない大事なポイント、と思います。
(つづく)

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